-
立派な金庫を買ったが入れるものがない
金庫はお金が貯まるアイテムなのだということを友人から聞き、影響されやすい私は友人と別れたその足で金庫を買いに行った。財布の値段×200倍が年収とかってよく言うけれど、金庫も同じように立派であればあるほど、入ってくる金額もそれに比例して増えるそうだ。だから私はホームセンターでそこそこ高い方の金庫を購入した。私にとっては結構頑張った金額だったけれど、あとで戻ってくることを考えたら安いものだ。配達をお願いし、私はご機嫌で家路についた。
数日後、業者さんが二人がかりで金庫を運びにきた。といっても女性でも何とか一人で運べるくらいの重さなのだけど…。まあ、落とされるよりはずっといい。「どこに置きましょう」と聞かれ、特に考えていなかった私は、クローゼットの中にいれてもらうことにした。後になって、「まるでホテルみたいだな」と思ったけれど、まあ、防犯的にはこれが正解なのかもしれないと自分を納得させてみる。
業者さんが帰った後、私は金庫の前でしばらくぼうっとしていた。何故だか急に酒が飲みたくなり、ビールを片手に、金庫の前にどっかりと座った。酒の肴が金庫なんて変だなと思いつつ、ほんのりいい気分だ。さて、この金庫に何を入れよう。通帳?いや、それはいつも持ち歩くようにしている。印鑑?いや、同じくカバンの中だ。マンションの賃貸契約書?いや、別にそこまで貴重ではない。カギ?いや、出かけるたびに金庫から取り出すなんて面倒で仕方ない。卒業アルバム?いや、ちょっと入れてみたけど微妙に入りきらない。それにそれもそこまで重要じゃないし。はて困った。せっかく立派な金庫を買ったというのに、入れるものがないじゃないの。
散々考えた挙句、私は金庫にあるものをしまった。それは我が家代々伝わる家宝の掛け軸…ではなく、実家から分けてもらった糠床である。温度も安定するので糠床には最高の環境だ。もちろん、味も最高である。
立派な金庫を買ったが入れるものがない